2021.12.24

2021年の「日本賞」

 教育コンテンツの国際コンクールである「日本賞」。世界の優れた教育コンテンツに触れるイベントとして、毎年楽しみにしています。今回は、今年のデジタルメディア部門のファイナリストについてご紹介します。

1. Mission US:”Prisoner in My Homeland”

 最優秀賞となったMission USは、アメリカの公共放送WNETグループ制作の、中高生を対象とする歴史学習用シリアスゲームです。日系アメリカ人を主人公とするこのゲームのプレーヤーは、第二次世界大戦中の不当な強制収容という苦境に立たされ、正解のない数々の選択に迫られます。過去の出来事を「自分ごと」化し、リアリティを持って追体験できる点が特長となっています。また、ゲームを進める際に考えてほしい問や、ディスカッション等の教室でのアクティビティをプログラムとして整えている点も特長と言えるでしょう。アメリカの歴史の暗部にフォーカスするため娯楽性は低いですが、「この後、どうなるの?」とノベルゲームのような感覚で進めていくことができました。

 教育コンテンツとしての目新しさはないですが、新型コロナウイルスのパンデミックによりアジア系への人種差別が問題化している今、特に子ども達に求められる視点であり、普及すべき教材とみなされたであろうことや、教材としての完成度等が評価されたと推察しています。

2. logo!news:date

 ドイツの公共放送ZDF制作のウェブサイトlogo!news:dateでは、「気候変動のために原子力発電を延長するべきか?」といった、明確な正解のない議題を毎週1つ取りあげ、その賛否を議論します。サイトは動画、コメント欄、関連資料で構成されており、約20分の動画は賛成・反対の意見や関連情報をスピーディーに提示し、ナビゲーターの二人が各々の結論を30秒で最終弁論します。動画の視聴者は、自分の意見をコメント欄に記入でき、多くの意見を確認できます。

 参考となる情報を、シンプルかつテンポよく視聴者に提示している点が特長で、ディスカッションが苦手な人でも、ついつられて一緒に考えてしまうのではないでしょうか。弊社の教材「まなブリッジ!」の総合学習編でも、表現の自由の行使の是非等、正解のない問に取り組む討論型授業用のコンテンツを展開しているため、非常に刺激を受ける作品となりました。

 その他、青少年の創造性を育成するためのアプリやAIを用いたキャラクターゲーム等、魅力ある革新的な作品がファイナリストとなりました。VUCA時代の到来で、現代の子ども達には正解のない問を思考し、自分なりの答えを導き出す能力が求められています。このため、教育コンテンツにおいても正解に誘導するのではなく、考えさせるための工夫や自分なりの視点で答えを導き出すための仕掛け、子ども達がその創造性を発揮するための仕掛けが大いに求められるようになってきました。これまでの日本賞を鑑み、その潮流の高まりが感じられる2021年のデジタルメディア部門でした。

Written by H.Owa


日々の学習と社会を繋げるデジタル教材。
小さな気付きを好奇心に変え、学ぶ意欲を創造する