2021.05.21

プロデューサー教育 ~私の原点~

15年ほど前、クリエイター養成学校に所属していた私は、プロデューサー育成のための大学院大学の設立に携わる事になりました。今も昔もプロデューサー不足と言われますが、それはプロデューサー教育が難しい事も1つの要因だと考えます。その難しい教育にチャレンジしたいと思った出来事がありました。

当時私が勤務していた拠点の卒業生でクリエイターとして活躍し、卒業後もよく遊びに来てくれる女性がいました。ある時彼女が、自由度の高いゲームを創りたいが自分の理想とするものがないため、ゲーム会社を起業する事も考え出資者まで集めた状態で私の元に現れました。そして彼女は
「自身の考えや企画が実現可能なものかを知りたいので、某大手ゲーム会社のMプロデューサーに会わせて欲しい」
と言うのです。
この見返りのないお願いをダメ元でオファーすると、拍子が抜けるほど簡単にOKのお返事が。(言い方は悪いですが)企画を盗まれる可能性を考慮し、若干修正を加えた企画書を携えM氏を訪問しました。

M氏は何度も頷き、時に内容に同意しつつ企画書に目を通します。そして最後のページを読み終え一言。
「ではバッグの中にあるもう一つの企画書を見せて欲しい。」
今お見せしたのは本日用の物で本物は他にあるなどM氏には言っていません。しかし彼は本日用の企画書の中の小さな矛盾点を見つけ、更に念のため本物の企画書をバッグに入れている事すら見抜き、それを見せろと要求したのです。

まごまごする我々に彼は言いました。
「自分は他社プロデューサーと意見交換をする事も多い。その際自分が考えているゲームと同じ企画を先に聞かされたとしたらプロのプライドとしてその企画はボツにする。つまりこの世界『聞いた者負け』だ。貴方は私に企画を盗まれることを考え、この企画書を準備したのでしょう。でも言った通りあなたの企画を盗むことはない。的確なアドバイスをしたいので本物を見せなさい。」

この間私はずっと鳥肌が立っていました(笑)
長くなるのでこのアポイントの結果どうなったかは別の機会にしますが、次のような要素が必要だと強く感じたのでした。

・部分最適ではなく全体最適のために動く
・新たな芽をフォローする姿勢
・初見の企画の小さな違和感を見抜く
・創り出すモノへの矜持
・最適な具体例で安心感を与え、聞き出しにくい事を全てさらけ出させる(本質はここにある)
・全てのパーツが揃った状態で成功となる状態指標を導き出す

時間の都合でヒトモノカネのカネの部分までは話せませんでしたが、それでもトッププロデューサーたる要素のいくつかを垣間見る事ができ、M氏のような人材を育成することこそが必要なのだと確信しました。

教育とは教員とカリキュラム等により後天的に目標とする姿に受講者を導く事。次回はM氏のように自社だけでおさまらず、業界全体の利益に貢献するプロデューサーを生み出す後天的な教育システムを考察してみます。

Written by S.Seki


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