2021.06.27

教材制作を本気でやってみると

2007年に科学技術振興機構(JST)からの委託事業でWeb教材を作ったことがあります。今回はその時の思い出をお話ししましょう。

現在、国立教育政策研究所で公開されている「理科ねっとわーく」という教材集。ここに光に関する教材「光でつながる科学」をNHKエンタープライズと一緒に制作をしました。
その際
「光の研究に関する歴史」
「光の速度の研究に関する歴史」

という2つの歴史系コンテンツも入れようという話になりました。前者は比較的すんなり行ったのですが、問題は後者の方でした。

世界で初めて光速度を導き出したのはレーマーだとされています。教科書などでは1676年に求めた値は秒速214300kmとなっています。これは現在の値と約30%ずれています。
しかし書籍によって値がバラバラであるため、「どうやったのか?」を突っ込んで調べてみると、彼は計算をしていませんでした。それどころか、彼の論文(正確にはフランス語ができなかったので、書記が代筆)には、観測方法は書かれていても、計算結果も観測の結果も詳しい事は書かれていませんでした。


レーマーの論文

レーマーはデンマーク生まれで、1676年にはパリに留学して研究をしています。そこではカッシーニと一緒にいたこともわかっています。
更に調べてみると、論文は書記がレーマーの意図を理解しないまま書いてしまったらしく、丁寧に読んでも肝心な部分の説明は意味不明な状態でした。
とはいえ、教材制作を行うのにレーマーの科学史的研究を行う意味はありません。ですので、レーマーの考えた手順を紹介し、
「このような考え方で観測を行った結果、秒速214300kmという結果が得られた」
ということにしておきました。

しかし気持ち悪さは残ります。一体誰が計算をしたのか。そして誰が「レーマーが計算した」ということにしたのか
そう、これでは引き下がれませんので、数年かけて調べ直しました。その結果わかったのは、レーマーと一緒に研究をしていたカッシーニは、レーマーの出してきた数値を採用しようとはしなかったこと。そのためレーマーの論文にも数値は入れられなかったようです。
そしてレーマーと親交のあったホイヘンスが、レーマーのフランス語論文を英語訳したらしいこと。そして彼が計算した値をニュートンに伝え、ニュートンが何らかの著作にそれを書いたらしいこと。その後

「レーマーの話を参考にホイヘンスが計算した結果」→「レーマーが出した値」
と勘違いされ、今に伝わっているのではないか、ということはおぼろげながら見えてきました。

一方、レーマーはパリからデンマークに戻った後、Rundetaarnという施設で研究を行っています。そこにはレーマーの観測ノートが保管されていて、それから個人的に計算を行ってみると、光の速度は秒速293200kmとなります。これは現代の値である秒速299792kmとわずか2.2%しかずれていません。

教科書にも書かれている話も、ちょっと怪しげな話がまだまだ潜んでいるのかも知れません。

Written by T.T.Yamada


ナスピア制作実績(Eラーニング)
Web教材「理科ねっとわーく」