2021.09.10

意志不通のメカニズム

今回は
「ちゃんと説明してくれない」
「いや、キッチリと説明した」
という部下と上司のやりとりが生まれるメカニズム、つまり意思疎通ではなく「意志不通」のメカニズムについて考えてみます。

人間同士のやりとりの前に、情報のやりとりのために行われる通信における問題点を紹介しましょう。
クロード・E・シャノンとワレン・ウィーバーの「通信の数学的理論」では、
①技術的な問題
 通信において、記号をどれだけ正確に伝えることができるか
②意味的な問題
 送信された記号は、どのくらい正確に所望の意図を伝えることができるか
③効果の問題
 受信された意図は、どのくらい効果的に所望する行為に影響するか
の3点が指摘されています。

とりあえず③は行動変容を促す部分ですので今回は外すとして、①、②は重要で、特に②は大変重要なポイントです。「意志不通」はこの②に起因するところが大きいからです。

そこで、まずは人間が他者に自分のアイデアや意見を伝える経路を単純化してみました。

ダイアグラム, 概略図

自動的に生成された説明
人間同士のコミュニケーション手順

左側の人物Aが右側の人物Bに自分のアイデアを伝えるシーンでは、Aの頭の中のイメージをBがテレパシーや念などで受け取れるわけではありません。Aは自分のアイデアを言語化し、Bは言語化されたアイデアを解釈しなければいけません。通信プロトコルでは「①技術的な問題」に含まれる「エンコード」と「デコード」ですが、人間同士の会話では「②意味的な問題」になります。つまり「言語化(エンコード)」がダメだと、「解釈(デコード)」も上手く行かない、逆にいくら「言語化(エンコード)」が優れていても「解釈(デコード)」がダメだと上手く伝わらないということです。

ではこの「言語化」「解釈」に影響するのは何でしょうか。ここには幾つかの要因があります。そもそも「同じ言語」であることも重要ですが、まず誰でも思いつくのは「文法」がダメな場合でしょう。キチンとした言葉にできなければまず伝わりません。
そして「語彙」の要素もあります。語彙が豊富な人とそうでない人とでは、会話が成り立ちませんから。そして「生まれてからこれまでの成長過程」つまり「生育背景」とでもいうべきものも「語彙」には影響を与えます。「言葉は思ったほど正しくは伝わらない」でも紹介したとおり、同じ言葉であってもその言葉から受けるイメージは人物によって異なります。

通信の世界でエンコード・デコードは厳密な共通ルールですから、問題なく送受信できコンテンツ再生が可能です。しかし人間の場合はこの部分が厳密に共通化されていないため、伝えた内容の意味と受け取った内容の意味がずれてしまうのです。教育で言えば「表現力」「読解力」にあたる部分の能力差ということです。

ちなみに今日の内容は筆者が毎年行っている大学での講義内容の一部です。内容を研修やワークショップとして提供することも可能ですので、興味のある方はご一報ください

Written by T.T.Yamada


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