2025.08.29

潜在動機を顕在化させたら親に叱られた件

父の影響で昆虫が好きです。50歳を超えた今でも年に1回は蛍を見に行きますし、カブトムシを捕まえに行きたい衝動は抑えられません。

蝉取り網は町内で一番長く頑丈なものを父が用意してくれました。カブトムシがいる山にキャンプに父は毎年連れて行ってくれました。カマキリの卵を冬登山で大量にゲットしたのも父とでした。生き物好きな父は私を利用して思う存分自分が楽しんでいたんですよね。

虫好きに育てられた私は、小学校低学年の時に鈴虫の一生を紙芝居風にした自由研究で賞を頂いた事があります。その内容は忘れましたが、先生にかなり褒められた記憶は残っています。
鈴虫の一生を語るには毎年鈴虫を交配させ繁殖させなくてはなりません。共食いを防ぐ餌やり、卵の期間の水やりの頻度と程度など様々な問題をクリアして、繁殖に成功していたのでした。鈴虫が鳴く頃は8月の終盤で、その音色は長い休みの終わりと秋の気配の先取りを感じさせるなんとも言えないものでした。

そんな鈴虫なのですが、いまだに父は実家で飼育を続けています。近親配合が続いた故の全滅危機、土を謎の菌類に浸食されての全滅危機などがあり、新たに成虫を買い足しつつではありますが、孵化⇒成長⇒恋⇒産卵⇒孵化を繰り返しています。

ケースから逃げ出した鈴虫を見た母がゴ〇〇リと見間違い大騒ぎ…などネガティブな面も多々ある鈴虫の飼育。単に虫が好きだけで数十年も父一人で続けられるものなのでしょうか。きっと隠された動機・モチベーションがあるはずです。私は鈴虫の音色より父のモチベーションに興味を持ってしまい、先日帰省した際に父に問うたのです。

1.こんな小さく古いプラスチックのケースにみっちりと鈴虫が暮らしている。鈴虫は自分の羽と羽をこすり合わせて音を出しているのではなく、隣の虫の羽と自分の羽をこすって音を鳴らしているかのようだ。生き物を美しく飼う密度を突き抜けている。父よ。君のモチベーションは熱帯魚を飼育するような見た目の綺麗さや癒しを求めたものではないな?
答えは当然イエス。これがノーなら彼の美意識から問わねばならぬところでした。

2.それにしても数が多すぎる。風流な虫の音ではなくもはや騒音レベルである。この部屋に布団を敷いて泊っていけと言うのであれば、私は日帰りさせてもらう。父よ。君のモチベーションは秋の虫の音色ではないな?
答えはイエス。ノーと言いたげな顔をしていましたが、私のこの問いかけにより、現状の鈴虫の音色が風流を突き抜けて不快になっている事にようやく気付いたようでした。彼がこれに気付かなければ、耳鼻科に連れて行かねばならないところでした。

私のイメージする生物飼育の動機としては上記のようなものなのですが、父の場合このどちらにも当てはまりません。しいて言うなら2だったみたいなのですが、これは論破しております。では彼の鈴虫繁殖のモチベーションはどこにあるのでしょうか。

母が綺麗に片づけているリビングに似つかわしくない小汚い飼育ケースにうじゃうじゃの虫たち。奏でる音は騒音レベル。この子たちは老人の2人暮らしに必要なのかと考えた私は鈴虫飼育の終了を提案しました。すると父はこのように反論したのです。

・近所の寺の住職さんが毎年この鈴虫のおすそ分けを楽しみにしている!
・どこそこの銭湯が毎年この鈴虫のおすそ分けを楽しみにしている!
・〇〇さんが毎年…(その他複数のご家庭に無償提供)

ここで父の動機がすり替えられている事が判明しました。
生き物が好き。秋の虫の音色が好き。これらが動機と思い込んでいた父の本当の動機は、鈴虫を無償提供した時の感謝の言葉だったのです。
餌の茄子の価格高騰、近親交配を避けるべく毎年購入する成虫の鈴虫。これらのコストをかけてまで、近所の鈴虫の音色ファン?に無償提供しているのです。息子たちに遺す遺産を減らしてまで無償提供しているのです!

生き物が好きではなく、褒められたい(よく言えば喜ばれたい)がため。
無意識のうちにモチベーションのすり替えを行い、それを息子に論破されるような形で顕在化された父。親戚一同の前で丸裸にされた父は恥ずかしさを隠すように、父親の趣味に口を挟むな!と大声で私を叱ったのでした。
そういえば昔、大量に捕まえたカブトムシを全部飼うと主張する私を退け近所に配ってたな、あの人…

Written by S.Seki


私のような不肖の息子がいなくても学びに動機付けする