2021.01.16

言葉は思ったほど正しくは伝わらない

日本は「空気を読む」など、言葉に出さなくても雰囲気で意思の疎通がある程度できるという高コンテクストの国だと言われています。ですが、本当にそんなことが起こるのでしょうか。実はこの「高コンテクスト」はある程度は事実ですが、「言葉に出さなくても意思の疎通ができる」というほどでは無いということを知っておく必要があります。

筆者は大学の講義でコミュニケーション論も教えています。日本には「十人十色」という言葉があるとおり、十人いれば十人とも異なる性格やバックグラウンドを持っています。まったく同じということはありません。これがコミュニケーションにおいて、言葉を解釈する際の差として現れます。、
「コミュニケーション不全に陥るほどの差ではないだろう」
と思われる方もいると思いますが、その認識を改めるために一つ、実例を挙げてみましょう。

意思疎通を図る上では、文章という形で、正しい文法に則って、できるだけ正確に相手に伝えるのが最も望ましい形です。日本語の場合は主語を省略する、述語を省略するなどの省略が多く、場合によっては単語のみでも意思の疎通ができます。ですが、この単語についてのイメージが、各々で異なっているのです。
大学の講義では学生に
「【雪】という言葉を聞いて頭に浮かんだ言葉を、3つ挙げなさい」
という課題を出します。挙げられた内容を全員で共有すると、内容と順番が完全に一致するということはまずありません。代表的なイメージはというと、2020年度の学生の場合
「雪遊び、スキー、かまくら、雪だるま、北海道、雪まつり、雪合戦、白い、冷たい」
などです。ほとんどの学生が関西出身であるにもかかわらず、まったく一致していません。もし雪国であれば「雪かき、雪下ろし」などの言葉が「雪」に紐付くでしょうし、大雪で高速道路上に閉じ込められた経験があれば、それに関する単語が出てくるでしょう。同じ日本で生まれ育ったとしても、同じ言葉に対するイメージはその「生まれ」「性格」「趣味嗜好」などによって異なるのです。

この個々人のイメージの違いは、言葉に対する解釈の違いとして現れます。もし意思の疎通を図るのであれば、ある言葉に対するイメージを共通化する必要があります。同じ会社で長期間働いている仲間同士では、言葉に対するイメージが共通化されていると思います。しかし新入社員はそうではありません。また、新しい言葉や考え方についても、イメージの共通化には時間がかかります。ですから「伝えたつもり」でも、イメージが共通化できていないものは、正しく伝わっていないと考えた方が無難です。正しく伝えるには、「日本人なんだからわかるだろう」ではなく、他の解釈ができないくらい厳密に言葉を使うべきなのです。

この文章の真意は、皆さんに伝わったでしょうか…?

Written by T.T.Yamada


調べ、考え、答えを導き出す。時事ニュースを通じ
自分の意見を導き出し発表できる力をつける