2022.09.01

コンピテンシーをオンラインの最前線から考える

「EdTech/eラーニングの最前線を考える」というテーマで掲載している教育コラムも、今回で3回目。
私は2022年8月5・6日に開催された「関西教育ICT展」で、京都光華女子大学 小山理子先生がセミナーで取り上げた内容を発端に、考えていきたいと思います。

当セミナーでは、コロナ禍を通してオンライン授業を行って得た、Zoomスキルや講義の構成といった工夫や、アンケートやお問い合わせを通して得たデータが紹介されました。その中で、特に気になったポイントが「コンピテンシー」です。
小山先生は学年別にPROGスコアを比較することで、オンライン授業を受けた期間が長い学年ほどコンピテンシースコアが低いというデータを、提示されました。

PROGは「コンピテンシー」を「対人基礎力」「対課題基礎力」「対自己基礎力」からなる「周囲の環境と良い関係を築く力」と表現(リンク先”測定内容”の項)しています。コロナ禍では「他者との関わり合い」の機会が奪われていますから、特に「対人基礎力」に影響が出ているのは明らかでしょう。

そこで、『コンピテンシー(特に対人基礎力)をオンラインで養うことができるか』という点を、深堀りしていきたいと思います。

結論から言えば、私は『不可能ではないが足りない』と考えます。

というのも、コロナ禍を通し「バーチャルオフィス」や、前回のコラムでも触れられた「メタバース」方面の技術は大きく進歩しました。
例えば、バーチャルオフィスツール「mycrew」のVoiceフロアは、個別通話と違って、(バーチャル上で)近隣のアバターにも音声会話の内容が聞こえる機能です。偶然から始まる第三者の加入や、話の展開など、今までのオンライン通話とは違ったコミュニケーションが期待できます。
ソーシャルVRアプリ「VRChat」は、カメラに映った身ぶり手ぶりや表情が、ほぼリアルタイムでアバターに反映され、コミュニケーションの情報量が多いのが特徴です。

こうしたオンライン上における、コミュニケーションツールの進歩は、コンピテンシーの成長に役立つでしょう。
ただ私は、オンラインの場合「コミュニケーションに参加しない」という選択が簡単にできてしまうことを、危惧しています。

学校生活での「関わり合い」は、多くが休み時間や放課後。そこで生まれるコミュニケーションには、「強制的にその場で過ごす」という、一種の強制力があります。
オンラインの場合だと、ログアウトしたり、極論デバイスの前から離席してしまうだけで、簡単に拒否できてしまいますね。

「周囲の環境と良い関係を築く力」には、「協調」だけでなく「忍耐」や「譲歩」という要素が多分に含まれます。PROGの「対人基礎力」の中にも「親和力」「協働力」が含まれていることからも明らかです。
現実世界と違って、「簡単に拒否」できる環境では、それらの要素を十分に養えないのではないか、と私は考えます。

オンラインの「手軽さ」「利便さ」と「忍耐」「譲歩」は、両立が難しい…個人的には、ほとんど対極にあるものだと考えます。
このような分野を、どうすればフォローできるのか、オンラインでの教育に携わる者として、今後の課題となりそうです。

Written by Y.Nakai


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