2022.04.15

状態動詞を「変化」と捉える日本語の性質

私が初回に執筆したコラムでは、日本では時制教育がないというお話を書きました。
今日のお話は、それと少し関係するお話です。

テーマは、「状態動詞と時制」です。

私は中学1年生の英語の授業で、「ラブレターに『I’m loving you』と書いてはいけない」ということを習いました。
英語では状態動詞は現在進行形にしない、ということですね。

日本語で言えば「私はあなたを愛しています」と書きたいのだから、現在進行形にすべきだろう、という日本人の感性との違いが感じられます。
「I love you」では「私はあなたを愛します」になるじゃないか、と。

ここが、日本語と英語の違いとして面白いところです。

英語では「状態動詞」を「状態にある」と捉えているのに対し、日本語は「状態になる」というニュアンスが強いのです。
そのため、日本語は「私はあなたを愛しています」と「進行形」にしてはじめて、英語で言う「I love you」と同じ意味になりますが、こうしても不十分です。

英語の「I love you」を厳密に日本語にするなら「私はあなたを愛している状態にあります」ですから、「今」という時制のみを切り取っています。

日本語の「私はあなたを愛しています」は、「(以前から今も)あなたを愛しています」というのが、一般的なニュアンスではないでしょうか。

つまり、日本語は、「状態動詞の進行形」を、英語で言うところの「過去進行形」として捉えているのです。

ここに、日本語の状態動詞がもつ「変化の前後(時制)」を「推測させる」性質が見えてきます。

「今その状態にあるのだから、以前からその状態である」という解釈です。

逆に、「あなたを愛します」と書けば「たった今愛する状態になったのだから、これまではそうでなかった」と解釈できます。

「私はあなたを愛していた」と過去形であれば、「以前は愛していたが今は違う」というニュアンスが強く感じられるでしょう。

ここまでくると、日本語は、英語にぴったりな表現をするのに向いていないのではないでしょうか。
一体、公的機関はこういう場合、どうしているのでしょうか。

GHQが作成した英語の草案が元になっている、日本国憲法をみてみましょう。

日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する

日本国憲法 前文

ほとんどすべての動詞が「熟語+する」という形になっていますね。
これが、日本語において最も「推測させる」余地が少なく、無機質な書き方なのでしょう。

「私はあなたを愛慕する」とでもするのが、最も英語のニュアンスに近いのかもしれません。
ただ、国語に携わる一個人としては、「月がきれいですね」と訳せる表現力を持ちたいと思います。

Written by Y.Nakai


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